アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

「早く行けよ、専務のところに。
 無理やり連れ出して、悪かったよ」

「亮太……」

 自分を見上げ、那智はくすりと笑う。

「やっぱり優しいね。
 ありがとう、亮太」

「優しくねえだろ。
 優しかったら、邪魔するみたいに、こんなところまで引っ張ってこないだろ」

 だが、那智は笑っていた。

 その那智に見つめられ、慌てたように、
「いやっ、俺はお前とか、ほんと好みじゃねえからっ」
と言うと、

「わかってるよ」
と彼女は言う。

「好みじゃねえんだけど……。
 頬ならいいんだっけ?」

 は? という顔をした那智の腕をつかみ、その頬に軽く口づけた。

「……は?」
と那智は今度は声に出していい、きょとんと自分を見上げてくる。

 無性に恥ずかしくなってきた。

 頬にキスするとか。

 しかも、頬にしたうえに、赤くなるとか。

 小学生か、俺はっ、と思いながら、落ち着かなくなって、頭を掻いた。

「ほら、帰れ。
 駅まで送ってやるから、帰って、専務に懺悔しろ。

 別の男にキスされましたって」

 そう言うと、那智は何故か、微笑んだ。