アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

「緊張するので」

「別に命を取ったりはしないぞ。
 お前が余計なものを見ていたとしてもな」

 そう言われ、遥人の側に行くと、那智は彼の足許のカーペットに腰を下ろした。

 横に座るのは、なにかこう、ご無礼な感じがしたからだ。

 遥人が笑う。

「先生に叱られてるみたいだな」

「いや、もう、そんな心境ですよ。
 専務、なんで、梨花さんの浮気を伏せておこうとするんですか」

「そんなこと表沙汰にして、婚約を解消するとか言われたら困るだろう」

「やっぱり、財産目当てなんですか。
 あ、すみません」

「……お前、やっぱり、口が災いして、殺されるタイプだな」
と冷ややかに見て言われた。

「千夜一夜物語の逆バージョンだな」

「アラビアンナイトですか?」

「シェヘラザードは賢い女だったから、語りで切り抜けたようだが、お前は語って、斬り殺されるタイプだ」
と言われる。

 もういっそ、斬り殺してください、と思って畏まっていた。