アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 でも、このままこうしていたいな。

 このまま朝が来なければいい。

 ……いや、もう来てるけど。

 ずっとこうしてられたら、この人はずっと私の側に居て、梨花さんとも結婚しない。

『専務はやめとけ。
 お前、泣くことになるぞ』

 そんな亮太の言葉を思い出す。

 やめとけって言われて、やめれるくらいなら、誰も恋で泣いたりしないよな、と思った。

 こんな風になるとわかっていて、好きになったりなんてしない。

 黙って那智を抱いていた遥人がふいに言ってきた。

「那智、七時だ」
「……気のせいです」

「なにが気のせいだ」
と軽く頭を小突かれる。

 顔を上げると、遥人の顔がすぐそこにあった。

 目が合う。

 そのまま見つめていると、遥人はこちらを見たまま、なにやら呪文のようなものを唱え始めた。

「かぴばらかぴばらかぴばらかぴばら……」

「なんなんですか、それは」

「いや、これはカピバラだと思い込もうとしてるんだ」

 そんな、くわばらくわばらみたいに。

「なんで、私をカピバラだと思おうとしてるんですか」

「うっかりキスとかしてしまいそうだから」

「……したらいいじゃないですか」

 つい、そう言ってしまう。