アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 もう〜、と思い、トイレに行ったあとで気がついた。

 遥人が寝ている部屋のドアが開いたままなことに。

 ……ちょっと甘えてみてもいいということだろうか、と考える。

 そうっと遥人の部屋に入ってみた。

 遥人はこちらに背を向け、寝ているが、今、ベッドに入ったばかりのはずだ。

 寝ているはずはないのに振り向かない。

 やっぱり、いいってことなのかな、と思いながら、布団の端にちょっと潜り込んでみた。

 ああっ、あったかいっ!

 思わず、ぎゅっと布団を握りしめる。

 そのとき、
「那智」
と呼びかける声がし、

「はいっ。
 すみませんっ」
と反射的に謝ってしまった。

 下僕のくせに、王様のベッドに入ってしまってすみませんっ。

 そう思っていると、振り向いた遥人は、そんな那智の顔を見て、ちょっと笑い、那智を抱き寄せた。

 うわ、あったか……。

 このまま、また眠ってしまいそうだ、と思ったが、またあの男の世話になる気か、という遥人の言葉はちゃんと頭に残っていた。