アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 親からは子供はいつか巣立つものだ。

 幾ら寂しいと思っていても、その瞬間は必ず訪れると知っていて、覚悟している。

 それは未来に向かうものだから。

 でも、失恋は違うな、と今、思った。

 それにしても、好きかもしれないと思った瞬間にこれはない、と思っていると、遥人が訊いてきた。

「誰に失恋したんだ?」

 どうしよう。
 はっ倒したいな、この男。

「……教えません」
と言って、布団に潜る。

「教えろ」
と布団をはがされたとき、玄関のチャイムが鳴った。

 えっ、誰っ?

 桜田が気を利かせてチャイムを鳴らしたりなどするはずはない。

 いきなり、トイレとかから当然のような顔をして、出てきそうだ。

 布団から出て、ちょっと寒い、と思いながら行き、インターホンを覗くと、明るい髪をした可愛らしい顔の少年が制服を着て立っていた。

「洋人(ひろと)!?」

 神田洋人が立っている。

「どうしたの?」
とドアを開けると、いきなり抱きついてきた。

「那智ー。
 かくまってよー」