アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 あったかいな。

 那智は目を閉じる。

 遥人の匂いがする。

 うちのシャンプーや石鹸の香りなのに、遥人の体臭と合わさるせいか、遥人の匂いだと感じる。

 やばいな。
 もうこのあと、どうするんだろう、私。

 専務が居なくなったあと。

 シャンプーも石鹸も変えなくちゃ。

 いや、きっと、珈琲飲んでも、新聞配達の人の溜息を聞いても、専務のことを思い出す。

「那智」
 遥人の手が何度も頭を撫でてくれた。

「お前に話しかけるんじゃなかったな」

「なんでそんなこと言うんですか」

 今までのすべてを否定しようとするような遥人の言葉に、つい泣きそうになりながら、彼を見る。

「専務、私、失恋とかしたことないんです」

「突然、なんの自慢だ」

 違います、と那智は言った。

「誰も好きになったことないんです。
 男の人として、好きになった人は居ないです。

 だから、失恋もしたことなかった。

 お母さんやお父さんが居なくなったときが、それに近い感情なんだろうと思ってたけど。

 やっぱり、全然違います」