アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

「残像というか、残気配というか」

「残気配ってなんだ……」

 朝から暇なことを言うな、と言う顔を遥人はする。

 だが、本当だ。
 お母さんが居た頃は、お母さんが居なくても、この部屋にお母さんの気配を感じていた。

 専務が居る今は、専務の気配を感じる。

 だが、それもいつまでのことだろう、と思っていた。

 いつしか母親の気配が消え、寒々しく感じたように、遥人の気配もいずれ消え、囚人の部屋に戻ってしまうのだろう。

 それどころか、この家全体をそう感じてしまいそうな気がした。

 もう此処売って何処か行っちゃおうかな。

 ふとそんなことを思う。

 みんな居なくなる。

 みんな此処から居なくなる。

「那智……?」

「専務、ちょっとだけ、抱きしめて、よしよししてくれませんか?」

「は?」

「いつも、膝枕してあげてるじゃないですか」
と恨みがましく見上げると、遥人は困ったような顔をする。

「ケチ」

 思わずそう言うと、
「いや、ケチとかじゃなくてな」
と言った遥人は、かなり迷って、那智の身体に触れてきた。

 そのまま抱きしめてくれる。