アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

「あ、いえ。
 専務が食べてらっしゃるので。

 うちの母親が、人が食べてるときは、テレビ見たり、新聞読んだりするなと言う人だったもんですから」

「それは、お前に似合わない立派なお母さんだな」

「いや、それがそうでもないんですよ。
 部分的にうるさいだけで、放任でしたから。

 あの人、あまり、見かけませんでしたしね、そもそも」
と言うと、こちらを見たが、なにも言わなかった。

「誰も居なくても、食事に集中するのがいいのかもしれませんが。

 今は一人暮らしなので、ついつい、テレビつけて食べちゃうんですよね」

「まあ、俺も褒められたもんじゃないな。
 本読みながら、食べてるし」

「なに読むんですか、専務って」

「いろいろだな。
 特に偏りはない」
と言うので笑うと、なんだ? と言う。

「いえ、家に帰っても書類読んでそうだなと思ったものですから」

「いまどき、迂闊に会社のもの外に持ち出せないだろ、物騒なのに」

 じゃあ、持ち出せたら、書類読んでるのだろうか、と思った。

 風呂に浸かっても仕事していそうな遥人を思い、少し笑う。

 そんな話をしながら、食事を終えた。