アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 他所を向いて、遥人は呟く。

「しかし、それは、普通の男なら引くな」

 桜田という男は変わっている、と言う。

「専務は引かないんですか?」
と言うと、黙っていた。

 なにか最初から引いてそうだ、と思う。

 桜田の趣味は変わっていると遥人は他人事のように言ったが、でも、あの人、専務の婚約者ですよ、と思った。

「あの、でも、まずいんじゃないですかね?
 梨花さんが桜田さんに結構本気なら。

 婚約、解消されちゃいませんか?」

 遥人がこちらを見、
「桜田は梨花と本気で付き合う気はあるのか?」
と訊いてくる。

「いや……それは」

 嫌いではないようなのだが、そこまでかと言われると違う気がする。

「だったらいいが。
 梨花が暴走する恐れはあるな」

「あの、梨花さんのところに行った方がいいんじゃないんですか?」

 遥人が無言でこちらを見つめる。

「いや、専務が放っておくから、桜田さんの方に行ってるんじゃないかと思って」

「……本気で言ってるのか?」