「梨花が来たのか」
那智の部屋。
膝の上で寝ていた遥人が起き上がる。
那智が桜田と居たら、梨花が来て揉めた話をしたからだ。
あれから那智の家で、遥人と待ち合わせて、いつものように夜を過ごしていた。
だが、いつもと少し違っていたのは、那智が帰ると、先に遥人が来ていて、待っていたことだ。
「お帰り」
とリビングで遥人が言ってくれたのを聞いて、一瞬、動けなかった。
また、この家に家族が住んでいるような気持ちになったからだ。
鍵を持ってる人が居るっていいな、と思う。
風来坊みたいな桜田さんはともかくとして……。
今日は、那智の部屋で寝てもらうことにして、いつものように膝枕をしていた。
今日の話も、或る意味、しょうもない話ではある。
ロシア料理店で、梨花と鉢合わせをした話だ。
「自分も浮気なのに、お前のところに怒鳴り込んでいくのがすごいな」
と呟いた遥人は、また膝に頭を横たえた。
「そうでしょ?
ほんと、梨花さんって、桜田さんの好みな感じですよ」
と笑って、専務の髪にそっと触れたあとで、
「あ、すみません」
と言った。
遥人が梨花をどう思っているのか知らないが、一応、彼の婚約者ではあるからだ。



