アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 遥人は那智が頼んだのと同じものを買ってきた。

 もしや、このラーメンの匂いの良さにつられたのか? と笑うと、
「なんだ?」
と見られる。

 いえ、と言いながら、
「それにしても、よく此処がわかりましたね」
と言うと、

「言ったろう。

 さっき、所用で出たとき、この前を通ったんだ。
 そしたら、偉く寛いでる奴が居て、暇でいいことだな、と思って見たら、お前だったんだ。

 まだ居るかと思ってきてみた」
と言う。

「なにか微妙に失礼な物言いのような気もしますが。

 ところで、此処、会社から結構近いので、こんなガラス張りのところで一緒に食べてたら、なにか言われませんかね?」

「仕事終わりに、ドーナツ屋に来るやつ、あんまり居ないだろ。
 会社付近でみんなが立ち寄ると言ったら、呑み屋かしっかり食事ができるところがほとんどだし。

 むしろ、こういうところで会ってる方が怪しまれないだろ」

 まあ、こんな堂々と逢引してるなんて思わないか、と思った。

「続き、読まないのか?」

 栞を挟んで閉じた本を見て、遥人が言ってくる。