「どうした。
機嫌が悪いが」
「悪いですよ。
いけませんか?」
「自分が呼び出しておいてなんだ」
と桜田は言う。
昨日のロシア料理の店だ。
桜田の都合でかなり早い時間だった。
遥人はまだ仕事をしている。
桜田も自分も、気に入った店に通いつめる癖があるので、今日も此処でいいようだった。
「今、迷ってるとこなんです」
と那智は目を閉じ、上を向く。
「貴方の力を借りるかどうか」
「ま、その場合、俺が貸すかどうかも問題だがな」
「薄情ですね」
と那智は目を開けた。
「辰巳遥人はよせ、と俺は言ったはずだが」
こちらを窺うように見て桜田は言う。
そんな彼を見ながら那智は言った。
「今気づいたんですけど。
専務と桜田さんは、ときどきしゃべり方が似てますね」
「そうか、そうかもな」
あっさり桜田はそう認めると、
「だから、お前、遥人が好きなんだろう」
と言ってきた。



