「俺があの男をつけて地下駐車場に行ったとき、何故かお前が居たじゃないか。

 よく考えたら、あんなところに居るのはおかしかったんだが、お前のことだから、迷い込んだのかと思ったんだ」

 まあ、迷い込みそうですよね〜、と自分で思う。

「いや、社内で桜田さんを見かけたので、なにやってんだ、と思って追ってったら、専務と出くわしたので、引き返したんです」

 なるほど、と遥人はなにか考えるように呟いた。

「なんで、その話を俺にしなかった」

「いや〜、家庭の事情は話したくないもんで。
 子供の頃から、いろいろとありまして。

 でも、ああ、また、この人、こんなことやっちゃって、と思ったんですよ、梨花さんと居るのを見たとき。

 そんなこんなで申し訳なくて、専務を寝かしつける役も買って出ました」
と言うと、

「全然買って出てはないだろう」
と眉をひそめられる。

「那智」
「はい」

「鍵を見せてみろ」

「え、なんでですか?
 鍵返せとか?」

 思わず、渡したくないような素振りをすると、遥人はようやく笑って見せた。

「そうじゃない、見せてみろ。
 最初に見たときから気になってたんだ」
と手を出してくる。