アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜





 一度家に帰ったら出てくるの面倒臭いな、と思った那智は、仕事が終わったあと、会社近くの店をブラブラしていた。

 ドーナツ屋で夕食をとりながら、窓際の席で、読みかけのミステリーを読んでいると、誰かが窓を叩く。

 見ると、遥人が立っていた。

 えっ、なんで?
とテーブルに置いていた淡いピンクの携帯を確認するが、鳴った様子はなかった。

 遥人が入ってくる。

 食べ終わった飲茶セットを見下ろし、
「まさか、それが晩御飯か」
と言ってくる。

「そうなんですよ。
 食欲がなくて。

 これから、鬼のような上司に痛めつけられるかと思うと」
と言ってみたのだが、遥人は、

「いや、ドーナツ屋で、偉く寛いでいる奴が居る、と思って見てたら、お前だったんだ」
と言う。

 いや……貴方になにを言われるかと思って、緊張してたんですよ、本当に、と思いながら、本を置いた。

 遥人が、自分も此処で食べる、と言いだしたので、えっ? と言うと、

「なんだ?」
と訊いてくる。

「専務、ファストフードとか食べるんですか?」

「一人暮らしだからな。
 結構多いぞ」

「そ、そうなんですか?」

 なにやらイメージと違うんだが。