アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

「なに言ってんですか。
 私は、専務とはなにもないですよ。

 浮気したり、二股かけたりしてるのは、貴方と梨花さんだけです」

 いやあ、とまだ仕事が終わっていないので、酒ではなく水の入ったグラスを手でもてあそびながら桜田は、ぼそりと言う。

「気持ちの上で浮気してる方が重いだろ」

「へえ……。
 そういう理屈で浮気してるわけですね」
と言うと、桜田は黙った。

 しばらくすると、また、ブツブツ言い始める。

「それにしても、いつから、辰巳遥人と付き合ってやがったんだ。

 っていうか、毎晩一緒でなにもないって、なんなんだ。

 お前、どんだけ魅力がないんだ。

 でもまあ、本当にやめとけよ、あの男は。

 あいつは、梨花を利用して専務になった男だぞ。

 どう考えてもお前、遊ばれてポイだろ。

 いや、遊ばれてもないのか、哀れな奴め。

 ……待て。
 何処に電話している」

「お母さん」
と携帯を耳に当てながら言うと、やめろっ、と桜田は立ち上がる。

「桜田さんが、若い女と遊んでますよ、と言ってやる」

 それから、もう、うちにも来ないでください、と言ったとき、今、切ったばかりの携帯が鳴った。