桜田は那智が行きたがっていたロシア料理の店に連れていってくれた。
家庭的な暖かい雰囲気の店だった。
少し気持ちが和んだような和まないような。
ああ、気分が落ち込んでると、美味しいもの食べても、味が三分の一くらいにしか感じられないのね、とは思っていた。
甘いものを食べたいと言ったはずなのに、しっかり、つぼ焼きを口にしながら、
「ちょっとだけ美味しい」
と呟くと、
「……店の人に殴られるぞ」
と桜田が言う。
「いや、めちゃめちゃ美味しいから、こんなときでも、ちょっと美味しく感じられるっていうか」
と呟きながら、つぼ焼きの上のパイ生地をザクザク落としていると、桜田が店内を見回し言った。
「俺も来てみたかったんだよな、此処」
困ったことに、相変わらず、気が合うな、と思っていた。
遥人とも、これだけ気が合えば。
いや、合ってないこともないのだが。
っていうか、あの人は、所詮、梨花さんの婚約者だしっ。
気が合ってもどうしょうもないしーっ、とまたまたフツフツと湧いてきた怒りに心の中で絶叫していると、
「せっかく奢ってやってるんだから、にこやかに食べろよ」
と言われ、ムカッと来てしまう。
手を止め、桜田を見上げた。
「今日、梨花さんに誘われませんでしたか?」



