渚にあのことは思い出してほしくはなかった。いじめられて入院したことなんて知ってほしくなかった。


「渚…」


「私のお知り合いの方ですよね?ごめんなさい。私、今記憶がないの…もうすぐ戻すからまた…話しかけてください」


クラスメイトはなんとなく察したようだった。


「長くはないんでしょ…?須藤さん」


宮ノ下はこそっと聞いてきた。


「私達も…あんなに酷いことしたけど須藤さんに幸せになって欲しいんだ…。綺麗事かもしれないけど…なにか、手伝わせてくれないかな…」


性格がねじ曲がってたあいつらでさえこんなことを言うのは渚の力だ。

やっぱりすげぇよ。渚は。俺の彼女は本当に世界一なんだ。


「なら、病院へ行ってくれ。そこで獅子村達を手伝ってほしい」


こいつらは何も言わず走って病院の方に向かって行った。


「ふふ、みんな急いでる。何かあるの?」


「それは内緒かな」


「ずるいなぁ」


頬を少しふくらませる渚でさえも愛しいと思う俺はかなりの渚中毒だ。


あたりが真っ暗に染まる頃には海の近くまで来ていた。


「海の音だ…」


海には誰もいないから静かな波の音だけが聞こえてきた。


「渚。海だ…綺麗だろ」