想いを残した距離に

渚のお母さんに連れられて俺達は病室に入った。そこにいるのはベットから起き上がって外を見る渚だった。


「「「「「「渚…!」」」」」」


みんなで名前を呼ぶと頭をかしげながら渚は俺達の方を向いた。そして言った。


「ど、どちら様でしょうか…」


俺の心が砕け落ちた。いや、俺だけじゃない。獅子村達もそうだ。


「ごめんなさい…私、自分の名前以外は思い出せないの。あなた達は誰ですか?」


渚は俺達を見てビクビクしていた。

渚の目に俺達は映ってはいなかった。
光もなかった。


「なんだか長い夢を見ているような気がするんです。不思議ですよね。あなた達も夢の中に出てきた気がする」


ふいに渚のお母さんが言った。

もしかしたらこのまま一生、記憶は戻らないかもしれないって。


「渚…嘘だよね…私は結!覚えてないの?」


「ごめんなさい…でも名前は聞き覚えがあります。そちらの方は…望さん?それでそちらが大河さん…春人さん…幸…さん?」


これには渚のお母さんも驚いていた。自分の名前しかわからない渚が俺達の名前を当てたのだから。


「わかるの?」


「なんとなくだけど…そんな名前を何回も呼んだことが…ある気が…」


もしかしたら記憶を取り戻すことができるかもしれない。ゆっくり時間をかければ戻せるかもしれない。そう思った。