「ただいま…父さん」


帰ったのは朝の5時過ぎ。朝早い出勤の父さんならもう起きている時間だった。


「おかえり。大変だったな」


父さんはそれ以上のことはなにも聞いてこなかった。俺もそれが楽だった。


「渚…」


結婚しようなとか言ったのに駄目じゃんな。俺、渚を辛くさせてたんだな。
指輪とか重いじゃん。銀色の指輪を左手の薬指にはめて俺はため息をついた。


できることなら渚とこれからもってそう思った。本当に最初に会った時から一目惚れだったんだ。ふんわりしてて他の女とは違う。俺じゃなくて空を見てて…いつか俺だけを見ていて欲しいって思ってた。


一緒に公園行った日なんか見てたからとかキザっぽい台詞言ったのに渚は笑っていてくれたな…。


先輩に告白された時なんか渚に止めてもらえねぇかなとかヤキモチ妬いてくれないかなとか思ってたらマジでヤキモチ妬いてくれたし、可愛い返事くれて
それでもっと好きになった。


花火大会に行く時なんかもう付き合いたいレベルまで好きになってて気がつけば花火中は渚の手を繋いでた。小さくて冷たくてでも守りたいくらい可愛かった。


渚の家に行った時は本当に緊張した。付き合ったらこんな感じなんだろうなとか勝手に思ってた。渚は鈍感だし全然気にしてないだろうけど俺、意外に緊張してたんだ。


渚がいじめられた時、渚は好きな奴がいるって言って俺から遠ざかってた。あん時、渚には嘘だってわかってた。なんて言ったけど本当は渚が好きなのは俺じゃないって言われた気がしてひとりでショックを受けてたんだ。それであの結末。

男して情けねぇや。


今思えば本当に俺の思い出は渚ばっかりなんだな。