あれは雪の降る日だった。
俺の愛しの人は突然倒れた。
そして俺の名前を呼んだ。


俺達はすぐに救急車を呼んだ。そして渚は手術室に運ばれた。


「渚!」


俺達が黒い椅子に座っていると渚のお母さんや海くんが来た。


「幸くん。何があったの…?」


「…俺達と一緒にいたら突然苦しみだして倒れたんです。医者は出来る限りのことはするって…。すいません。俺がいながら」


俺は頭を下げた。


「いいのよ。こうなることはなんとなく予想ができてたわ。あとは渚を信じるだけなの」


娘がこんな状態なのに…誰も責めようとしない。ただ娘を信じるだけなんてすごく強い心を持ってんだろ…渚はここからあんな心を貰ったんだな…。


真っ暗な廊下で俺達は7時間という長い長い時間を静かに過ごした。そして夜中の4時頃。手術中というランプが消えた。


「先生!渚は…!?」


真っ白な服を着た先生はため息をつきながら言った。


「山は超えました…が、まだ大変危険な状態です。小さく、取り除ける脳腫瘍は取り除きましたが、やはり病気のもととなる腫瘍を取り除くにはリスクが大きすぎます」


「延命治療はしたくないそうなので…」


延命治療ってずっと寝たきりで生かされる治療のことだよな…。俺だって…渚には眠ったまま消えてほしくなんかねぇよ。


「わかっています。これからは入院生活になるでしょうね。ゆっくり延命治療以外の治療をしながら…ね。
ただ、長くは持たないでしょう…」