「山口さん……あんな所に相談する必要はない。
も、もちろん冗談に決まってるじゃないか……」
必死な形相で引き止める課長を素知らぬ振りでかわしてみる。
「そーですね。それじゃー今までの件も含めて冗談で済まされるかを相談してきますね」
先程まで冗談だと言っていたのに、私が人事課行きを止めないと分かると態度が豹変する課長。
「おまえが【セクハラ相談室】にどんなに訴えかけても相手にされる筈がない。
人事課長は俺の同期だからおまえの話より俺の話の方を信じるに決まっている。
山口残念だったな……」
蔑みの表情を浮かべて薄ら笑いしている課長を苦い思いで見返して居たら……
「幾ら同期でもセクハラの現場を見てしまったら庇い立て出来ないなぁー」
その声は人事課長の真壁さん
スッキリとした身のこなしにスタイリッシュな銀縁メガネが似合う素敵な紳士。
うちのダルダルな身体つきの課長と同期とは到底思えない。
「ま…真壁課長がどうして……」
慌てる課長を余所に私は大よその見当がついていた。
「矢野君がいつも資料室を整理していると聞いていたから資料を探して欲しいと頼んだ。
幾ら待っても資料が届かなくてね。自ら探しに来て……
ついでに総務課長に部下の管理不行き届きを厳重注意しようと思ったらセクハラの現場に出くわしたって感じかな」
飄々と喋ってはいるが真鍋課長の眼が物凄く冷たい。
まるで蛇に睨まれたカエルみたいに怯える総務課長。
私まで瞬間冷凍されてしまいそうだ。
真鍋課長の後ろに身を隠す様にして泣きそうな顔をした矢野君が立ちすくんでいる。
『可哀想だけど……全ては身から出た錆だと思って反省して欲しい。
同じ間違いをしないようにね』
矢野君に心の中でエールを送った。