手術は成功した。愛梨ちゃんは、何時間にも及ぶ手術を耐え抜き、よく頑張った。その知らせを、翌日の大道芸の最中に関係者からメールで受け取った俺は、自分の子供のことのように喜んだ。そして、年末年始とクラウンの仕事がないまま時は過ぎ、愛梨ちゃんの退院の日が来た。俺は、大道芸の仕事を休んで、祝いに行った。

愛梨ちゃんは、父親と並んで、病室の前に立っていた。父親らしい30後半の男性は、俺のことを聞いていたらしく、会釈をしてくれた。感じのいい人だった。

「愛梨が、お世話になりました。私がなかなかかまってあげられなかった中、なんとお礼を申し上げたらよいか」

「そんな、何もしていません」

俺が恐縮する中、愛梨ちゃんは、一輪の花を差し出してくれた。まだみずみずしい、あの時話題にしたクリスマスローズだった。

「お兄さんにも、サンタさんが来てくれますように」

愛梨ちゃんは、子供とは思えないほど静かに、しかしあどけなく笑った。バラは、艶やかに、月の光のように微笑んでいた。


あの時、サンタは来たのだろうか。俺にはわからない。あるいは、錯覚だったのかもしれないし、たまたま誰かの歌声が、月の風に乗ってやってきたのかもしれない。それでも、俺はサンタになれた。愛梨ちゃんだけのサンタに、クリスマスローズの花びらがしんしんと降る中、クラウンの俺は、あの瞬間は、サンタだった。命など、なんで惜しいものか。一人の女の子に、真実の奇跡と夢をプレゼントすることができたのだから。



(了)