「さあさあ、今日はさても不思議な術をお見せするよ!!」

 俺は、精一杯のやわらかい声を出して、コインを1枚取り出して、まわりに見せた。子供たちは、きらきらと目を輝かせて、俺を見ている。

 今日は、コインを使ったマジックを披露する。子供たちは、成功するとわっと歓声を上げた。右手につまんだコインを、その下に広げた左手を「通過」させ、そのさらに下にある袋の中に落とすのだ。これは、師匠から習ったとっておきのマジックだ。そして、やれば必ず、誰もが喜ぶ。

 「お兄さん、すごい!!」

 「もっとやって、もっと!!」

 「はいはい、でも、もう今日は時間だ。また来週来るから、みんないい子にしてるんだぞ」

 俺は、ピエロ服を整えて、コインやマジックの道具を片づけると、その病室を出た。子供たちは、おとなしくベッドの中にもぐりこんだ。

 そう、俺はホスピタル・クラウンだ。つまり、病気の子供たちのために、一時の気晴らしをさせるために、この病院に雇われたクラウン――「道化師」なのだが、普段は大道芸をやって、日銭を稼いでいる。その俺の芸を見た関係者が、このクラウン役の話を持ち掛けてくれて、仕事が欲しい俺は快諾した。

 だが、やってみると意外に難しい。「子供だまし」は通用しない。大人と同じ立場に立つことが大事で、決して「同情」「憐憫」の気持ちを出してはいけない。子供は特にそういう「おかわいそうな」という「哀れみ」に敏感で、そうして接しようものなら、決して心を開いてはくれない。確かに、病気で入院してはいるものの、「小さな大人」として、自立した人間と認めてあげること。それが、クラウンたる俺に求められ、体得したことだ。


 「あ、今日はあの病室に向かわないと」

 俺は、控室で大切な用を思い出した。ある女の子の病室に行かねばならない。その子は、心臓の病で入院しているが、先日、子供たちにクリスマスは何をしてほしいか尋ねた際、容体が悪くて、与えられた個室にいなかったのだ。クリスマスには、年に一度のイベントとして、病院側が予算を組んで、俺にサンタ役を依頼し、ある程度の金額ならプレゼントをあげてもよいと言ってくれた。サンタになるのは、学生時代のアルバイト以来だが、クラウンになってからは初めてだ。俺は、少しどきどきしながら、その子――愛梨ちゃんの病室へ向かった。