貴方は驚いた顔で振り向くと、ズレ落ちそうなかんかんぼうを整え
「弟子は募集していないもので。」
とだけ言うと立ち去ってしまった。

僕は貴方を尾行した。気づかれないようにそっと。

「燃えない木」で出来た新築の(見た目はぼろやなのだが、それがいいらしい)家が立ち並び、コンクリートで塗装されていたはずの地面は土で埋められて、昭和や大正を思わせる町並み。
ぽつんぽつんと家に光りが燈っている。それもそのはず夕日が沈んだのだ。辺りは暗い。

そんな暗い道をどこまでも歩きつづける貴方は、急に思い立ったように路地へ入っていった。

「しまった..!」
慌てて追い掛けて、路地に向かう。が、既に貴方の姿は消えていた。路地には、猫がうずくまっている。猫というものは、誰か来れば逃げるようにどこかへ行くはずだし、なんにせよここは行き止まりだ。
「何処へ行ったんだ...」
僕は木の壁を、ゴミや木材を足場にしてよじ登った。
向こう側に降りようとするが、とても高い。飛び降りたら足をくじいてしまいそうだ。降りようか、おりようにも降りれない。どうしようかと悩んでいると、横で声がした。
「大丈夫ですか?手伝ってあげましょう。」
貴方だった。
「いいさ。手伝いなんかなくたって一人でおりられるわい。」
僕は恐る恐る降りようとぶら下がる。が調度手が木のささくれたところに当たって手を離す。
間もなく僕の体は重力に任せて落ちていく。
「ああーー!!!」
落ちたと思って目を伏せる。
と、腰に温かみを感じた。恐る恐る目を開ける。と、
「だから手を貸そうかと聞いたではありませんか。」
貴方は僕を抱えてにんまりと笑った。
無様だ。恥ずかしくて合わせる顔がない。なにせ「手を貸さなくたって降りれる」といった矢先に落ちたのだから。
「落ちたってたいした高さじゃないわい。擦り傷くらいですんでいたさ。きっと。」
僕は恥さらしの気分だった。
すると、貴方は言う。
「なんなら投げ落としてやったっていいんですよ。」
「わかった!!ありがとう!!」
僕は冷や汗をかきながら地面へ降ろしていただいた。
赤面の僕はどうしようもなくなって、その場を駆け出した。