全力で逃げたい男





「…..吉原?」



急に立ち止まった吉原に不思議に思って話しかける。



いつもなら、そのまま私の手を握って許可なく私に着いてくるのに。



「…..琉乃ちゃん。アイツが言ってたこと、


全部違うから…..」




「…….」



急に振り向いて真剣な顔をした吉原に、なにも言えなくなる。



….知ってるよ…。




吉原が私のことをそんなふうに見てないことくらい……。




ちゃんと私のことを見ててくれることくらい…..。




黙っていてなにも言わない私を、吉原はそっと抱き寄せる。





「琉乃ちゃん…。


ホントに無事でよかった…。


あのとき琉乃ちゃんがそれ以上のことされてたら、きっとアイツのこと本気で殺してた。


今だって本当は殺してしまいそうだった….」





私のことをまるで存在を確かめるように強く抱きしめる吉原。




…本当に、どれだけ心配させちゃったんだろ…。