素直になれっ!
素直にならなきゃ!
ここは素直になるべき場面よ、梢!


自分自身に強く念じて、洗い物をしていたシンクの水道を止めた。


「ここにいちゃダメ?」


それを言った途端、カメ男が少し瞳を揺らしたのが分かって、その反応が困っているのか迷惑がっているのか不明だった。


「だってさ、心配なんだもん。そばにいたいよ」


言い終わるか終わらないかのうちにあっという間にヤツに抱き寄せられて、気づいた時にはヤツの腕の中だった。


おおおおおお、ビックリした~。
ド、ドキドキしちゃってるよ~、私。


「そばにいて」


カメ男の声は、風邪のせいで掠れ気味で。
それはそれでまたいつもとは違う口調にも聞こえて不思議だった。
ちょっと色っぽいっていうか。


「夏休み、台無しにしてごめん」

「あのね。私は別に旅行なんて行かなくても平気だよ?柊平と一緒にいられればそれで……」

「風邪、移したら謝る」

「へ?」


聞き返した次の瞬間、私の唇はヤツのそれで塞がれてしまった。


フガフガ言ってるうちにものすごく激しいキスに変わっていて、もはや頭の片隅で理性を保つのがやっとだった。
ついでに立っているのもやっとだった。


この男は確か、38.5度の熱があるはずなんだけど。
どこからどのような思考回路でそんな行動に出たのかは分からなかったけど、とりあえずとろけそうな脳みそを奮い立たせてヤツの肩を強めに叩いた。


キスの合間に「なに?」と聞いてくる。


なに?じゃないでしょうがあああああああ!!
風邪引いてるくせにどこまでやる気だああああ!!


「これ以上はダメ!」


と、無理やりヤツの体を押し返した。