私が用意したうどんを汁まで平らげたカメ男は、ペットボトルに入ったポカリスエットを1本すべて飲み切り、病院の薬を忘れずに飲んだ。
買ってきたばかりの体温計で熱を測ったら、38.5度。
まだ全然下がっておらず、頓服でもらった解熱剤も追加してヤツに飲ませた。
「梢」
キッチンで洗い物をする私に、カメ男が話しかけてきた。
「怒ってないの?」
「え?何を?」
「旅行、ダメにしたこと」
あぁ、そういうことね。
ヤツの顔が浮かない理由。
私が怒り狂ってるんだと思ってるわけだ。
「怒ってないよ。そもそも病人と一緒に旅行したって楽しくないしさ」
ほんとは心底ヤツを心配してる気持ちでいっぱいなんだけど、なかなかそこは素直になれなくて可愛げのない答え方をしてしまった。
「ごめん」
バラエティ番組の陽気なBGMが流れる空間で、カメ男の言葉が静かに響いた。
「あんなに楽しみにしてくれてたのに」
その言葉だけで、痛いくらいに伝わってきた。
ヤツが自分を責めているということを。
私が「楽しみ」というセリフを幾度となく繰り返してしまったがために、追い込んでしまったような気がしてならない。
暗くなりそうな場を盛り上げなくちゃ、と急いで明るい口調で笑い飛ばした。
「しんみりしないでよ!昼間も言ったでしょ~?旅行なんていつでも行ける、って」
「急だけど、明日と明後日で誰か友達誘って出かけてきたらいいんじゃない。せっかくの夏休みなんだし」
ヤツはヤツなりに、私に気を使ってそんなことを言い出してきたらしい。