「帰ろっか」
私があっけなく決断したもんだから、カメ男はメガネの奥の細い目を少し見開いて驚いていた。
「旅館、キャンセル料かかるよ」
「もちろんあとで払うよ。当然でしょ」
ポカンと呆気に取られているヤツの手を引いて、車を停めたところまで歩き出す。
「行き先変更!病院へ行きましょ~」
「いや、いいよ。新潟行こう」
「バカッ!何言ってんのよ!」
ただでさえ外は暑くてダレるのに、なんでそんな微妙な抵抗をしてくるのか理解出来ない!
腕を組んで怒ってますアピールをしてやった。
「旅行なんていつでも行けるでしょ?そんなのより体の方が大事じゃない」
そんな大事なことも分かんないのかな~。
カメ男ってば、よっぽど温泉に浸かってゆっくりしたかったんだな。
でも、熱があると分かったら急にカメ男の表情が辛そうに見えてきちゃって。
けっこう無理してここまで平静を装ってたんじゃないかと思った。
「車の鍵、ちょうだい」
と、私が手を差し出したので、ヤツは首をかしげた。
「なんで?」
「私が代わりに運転する。病人に運転はさせられません!」
「…………………………断る」
「断らないでよ」
「ペーパードライバーの車に乗ると悪化しそう」
し、し、し、失礼な!
確かにペーパードライバーだけどさ!
親切心をこうも見事に目の前で打ち砕くとは!



