ウサギとカメの物語 2



それまでこれっぽっちも考えていなかった結婚について考えるようになったのは言うまでもなく。


カウンター席で隣に座るカメ男にチラッと目を向けてみる。
ヤツは私がそんなことを考えているなんて思いもしないのだろうな。
でも、こいつに結婚のタイミングを握らせたらおばあちゃんになるまでプロポーズされないような気がしてならない。


「結婚式とか出るとさ、結婚したいなぁって思うことない?」


少しアピールしてみるか!と試しにそれっぽいことを言ってみたら、カメ男ときたら、う~ん、と首をかしげて


「最後に結婚式呼ばれたの2年前だから、あんまり覚えてない」


とボソボソ答えた。


くっそぉ~、そう来たか。
こうなりゃカメ男の部屋にさりげなく結婚情報誌でも置いとくか。
よく聞くよね、男ってそれを見ると結婚を意識するって。


……いや、ダメだ!
相手はカメ男なんだ!
一般の男性と同じように考えちゃいけない!
ヤツは鈍感男なんだから!
きっと普通にその雑誌の表紙なんかを見ることもなく「忘れてたよ」とか言って持ってくるんだ!


ところが、そこで。
雑念だらけの私の考えを吹き飛ばすほどの言葉を、ヤツが言い放った。


「お金無いなら俺が出すからさ、夏休みに温泉でも行かない?」


ビールから日本酒に切り替えたカメ男がいつものトーンでそう言い、テーブルの上にある素揚げされたゴボウをパクッと口に運んだ。


その仕草を、私はただ目を丸くして見つめていた。


「おんせん?」

「うん、温泉」

「夏休みに?」

「うん、夏休み。せっかく合わせて取ったんだから、活用した方がいいでしょ」

「い、い、行きたい!!」


結婚の話なんてどうでもええわっ!
っていうくらいに私の心は舞い上がり、頭の中のリトル梢が踊り出した。


たった3日間しかもらえない夏休みに、どこかへ出かけようという普通の人なら思いつくことを、カメ男も思いついたなんて意外だった。