その日の帰り、私とカメ男は駅のホームで電車を待ちながら、優くんについて話をした。


「今思い出すと恥ずかしいよ」


とつぶやいた私に、カメ男が首をかしげる。


「何が?」

「だって、てっきり優くんは私のことが好きなんだと思ってたんだもん。あんなイケメンに好かれちゃって、内心ニヤニヤしてたしさ~」

「モテ期が到来してたのは俺だったな」

「あはははは!笑わせないでよ」

「笑わせてない……」


げんなりしたように肩を落とすカメ男の背中を、励ますつもりでポンポン叩いてやった。


「優くんと親友になったし、もしも酔い潰れちゃった時は、柊平には頼らずに私んちに泊めるから安心して」


それは、カメ男を元気づけるつもりで言った何気ないセリフだったんだけど。
特にこれといった感情も込めていないセリフ。


ヤツはそんな私の励ましの言葉に対して、うなずいてはくれなかった。


「それはダメ」

「……………………え?なんで?どうして?」

「どうしても。ダメ」


しばらくホームに突っ立ったまま、ヤツの顔をまじまじと見上げる。
カメ男は線路をじっと見下ろしていて、私とは視線が交わらない。


……………………………………へぇ~。
これって非常に分かりづらいけど、ヤツの小さな愛情ってやつかしら。
優くんは親友でも男なわけだし。
鈍感なカメ男でもそのへんは警戒してくれるんだ。


やけに嬉しくなっちゃって、自分からヤツの手を握ってみた。


「なに?」


なんの前触れも無く急に手を繋がれたから、カメ男は少し戸惑っていたようだった。
そんなヤツの肩にもたれてみる。


「柊平、今日泊まってもいい?」

「…………うん、いいよ」


うふふ。
棚からぼた餅。


今日は、ヤツの愛を感じた日にもなった。