月曜日の朝、出勤したての私の前に勢いよく滑り込んできたひとつの影に飛びのくほど驚いた。
まだ少し眠かった頭が一気に現実へと引き戻される。


私の目の前には、優くんが両手を合わせて土下座でもするんじゃないかというぐらいの申し訳なさそうな表情で立っていた。


「梢~!!ほんっとーーーにごめん!!」

「……おはよ、優くん」


私がニコッと笑って返事をすると、彼はうなだれたように目を伏せてその端正な顔を歪めて


「俺……最低だよな。酔っ払って梢に絡んじゃって……」


とつぶやいた。


あの泥酔状態でどこまで覚えているのかは謎なんだけど、とりあえず微妙に話を合わせておくことにする。


「まぁ、仕方ない!そんな日もある!私も去年似たようなことやっちゃってるからね」


あはは、と笑って優くんがあまり気に咎めないように心がける。
私が笑っているからか、彼は少しホッとしたように肩を落とした。
その顔には僅かに笑みもこぼれる。


「もう一生口聞いてもらえないかと思った~。土曜の朝、目が覚めたら柊平が床で寝ててビックリして。柊平にももう1回謝んなきゃ……」


さすがに男2人でシングルベッドに寝るのは無理、っていうか想像しただけでむさ苦しいもんね。
そこはカメ男が大人しく床で寝たらしい。
ヤツのことだから気にせずひとつのベッドで寝たんじゃないかと密かに思ってしまった自分が悲しい。


「なぁ、あの時どうして柊平がいたんだ?俺、呼び出したの梢だけだったよね?」


ふと尋ねられた優くんの何気ない質問。
私はそのへんのことは全く考えていなくて、聞かれた瞬間目を泳がせてしまった。
100万人都市のまぁまぁ大きな街で、あの日あの時あの瞬間に偶然カメ男が通りかかるのもおかしい話だし。


答えに詰まっていると、後ろから聞き慣れた落ち着いた声が聞こえた。


「おはよう」


救世主!


期待に満ちた顔で振り向くと、ボサボサの髪の毛のまま出勤してきたカメ男が私の後ろにいた。