ヤツの歩くペースに合わせながら、モゴモゴと話しかけてみる。


「どうやらモテ期が到来したみたいなんだよね、私」

「モテ期?」


コツコツ、と私のヒール音が響く中で、ヤツが首をかしげてこちらに目を向けてきたのが見えた。


しめしめ。
キミの彼女はイケメンに好かれているのだよ。
焦りたまえ、カメ男くん。


「さっきね、ラブかライクか分かんないんだけど、優くんに好きだって言われたの」

「ふーん」

「………………驚かないの?」

「まぁ、そんな気はしてた。高槻も梢と話してる時は随分と楽しそうだったから」


しれっと答えてのっそり歩くヤツの後ろ姿を、私は思わず立ち止まって目をパチクリ瞬かせて見つめた。


どういうことだ、一体。
私にはヤツの言ってることが理解出来ない!
そんな気はしてた、っておいおい!


いつまで経っても何も言ってこない上に、立ち止まってついてこないことに気づいたカメ男が、私の方を振り返る。
そして、いつもの冷静な口調で


「言っておくけど、俺の嫉妬心を煽ろうとか思ってるなら期待には応えられないよ」


と、諭すように言ってきた。


ガーーーーーン。
って漫画のような効果音が私の頭に鳴り響く。
くそぅ、なんて奴だ!
こっちの思惑はお見通しって訳か!
負けてられないぞ!
何に勝って何に負けるのか、自分でも理解不能だけれど。


負け惜しみっぽくムキになってカメ男に尋ねる。


「ちっともそういう感情、沸かないの?」

「ちっとも」

「心配にならないの?」

「ならない」

「どうして?」

「信じてるから」


ガーーーーーン。
今度は違う意味で私の頭に漫画のような効果音が鳴り響いた。


ダメだ……。
私はカメ男に完全にやられてしまった。
もしかしてこの男、私がものすごく惚れ込んでいることに気がついてるんじゃ……。


超がつく鈍感だと思っていたけど、実はそうじゃなかったりして。
そう思った瞬間だった。


「ここまででいいよ。気をつけて帰ってね。おやすみ、梢」


もはや歩く気のない私に、カメ男はそのように言い残して優くんをズルズル引きずって階段を降りていった。


ポカーンとその場に立ち尽くした私は、石のように、いや置物のようにビクともしないカメ男のドンとした考え方に心底震えてしまった。


私、けっこうヤツに愛されてるんだな、って。