カメ男の歩くスピードが遅いのは分かってはいたけど。
ヤツが私たちのいる場所に来るまで、だいぶ、いや相当な時間待った。


待って待って待ち続けて、ようやくヤツは現れた。
私たちの姿を見つけたからといって走ることもなく、普段と同じくのそのそとマイペースに歩いてきたらしい。


私はその時、優くんの隣にしゃがみ込むようにしてちょっとだけウトウトしかけていた。


「梢」と、声をかけられるまですぐそばに来たカメ男の存在に気づかなかった。


ビックリして飛び上がるようにして立ち上がると、目の前に怪訝そうな顔をしたヤツが立っていた。
ヤツの目は私ではなく、すっかり熟睡モードの優くんに向けられている。


「この状況はなに?」


ひしひしと感じるヤツの「面倒くさい」オーラ。
そんな顔しないでよ~、私だって面倒くさいっての!
とりあえずなんでこうなったのか話したい!


「説明してもいい?」

「…………どうぞ」

「まず、奈々と酔いどれ都に行って、22時に別れたの。それで、帰りがけに優くんから電話があって、一杯付き合ってくれって言われて。その時にはもうかなりベロンベロンに酔ってたから断ったんだけど。タクシーに乗せようとしたらその前にここで寝ちゃって、それで……」

「要するに高槻をどうするか、ってことだね」


過程はいいから結論を先に、とでも言うように私の話を遮ったカメ男が、それはそれは深いため息をつく。


「どうせ起きないだろうから、俺の家に泊めるよ。それしか無いでしょ」

「……てことは、優くんのことお姫様抱っこするの?」

「……………………………………しない」


こんな時だっていうのにくだらない雑談を交えてしまった自分に笑えた。
そして、そんな私の言葉に一瞬笑いそうになっていたカメ男の顔をガン見する。


ヤツは即座に表情を元に戻すと、


「梢はもう帰っていいよ」


と私に言って、優くんを肩に担ぐと引きずるようにして歩き始めた。


「タクシーに乗るまで見届けさせて」


私にだって多少の責任はあるし、巻き込んだ申し訳なさもあるし。
途中までカメ男についていくことにした。