そして、ここで私はようやく自分の掲げた目標を思い出した。
カメ男に「梢」と呼んでもらうという目標を。
さて、どうしようか……。
まずは私の方から先にさりげなく「柊平」って呼んでみるか。
さっきからヤツのことを思いっきり「須和」って呼んで会話していたのに妙かもしないけど。
今まで付き合った人はほとんど名前なんて最初から「梢」とか「コズ」って呼ばれていたし、ハッキリ言ってカメ男のようなタイプは私の範疇に無い。
遠回しに伝えるべきか、ストレートに伝えるべきなのかもいちいち悩むところなのだ。
「大野」
考え込む私の脳内に、いつもの口調、いつものトーンでカメ男の声が聞こえた。
振り向くと風呂上がりでサッパリした様子のカメ男が、髪の毛をゴシゴシとタオルで拭きながら
「風呂どうぞ」
と言ってきた。
よし、呼ぶなら今だ!
行け!私!
「しゅ……、しゅ、しゅ、しゅ、しゅ、……。うーん、ダメだ」
見習い忍者の手裏剣練習か、とでも言うような謎の「しゅ」を繰り返し、見事にヤツの名前を呼ぶことが出来ずにその場に撃沈。
一瞬天を仰いだあと、ユラーッと幽霊のように立ち上がり(見たことないけど)、ちょっと怪訝そうなカメ男に
「お風呂いただきます」
とうなずいて、脱衣所にトボトボと向かった。
バカ~!私のバカ~!!
さりげなさ0%!
挙動不審100%!
とりあえず作戦の練り直しだ!
温かいお風呂にどっぷり浸かりながら、ゴシゴシと濡れた手で目をこすった。



