駅地下のスーパーで買ってきた食材をとりあえずキッチンに出して、ビール用のグラスは冷凍庫に入れて冷やしておく。
時計を見ると19時。
カメ男からは連絡も無いし、まだもうしばらく帰ってこないだろう。
トレンチコートを脱いで、スカートのポケットに入れていたシュシュで髪の毛を適当にひとつに結わえると、ご飯の支度にとりかかった。
カメ男がアパートに帰ってきたのは、それから1時間ほどあとだった。
「思ってたより遅かったね」
玄関で靴を脱ぐカメ男に声をかけると、ヤツは疲れ切った顔で大きなため息をついてきた。
こんな顔で帰ってくるのは初めてのことだった。
「何かあったの?トラブルとか?」
「違う。高槻に捕まった」
「優くん?」
きっかり定時に帰ったと思っていたのに、優くんはまだ会社に残っていたのだろうか?
そんな私の疑問が顔に出ていたらしく、カメ男は鞄をドサッと床に置いてベッドに腰かけてボソボソと説明してくれた。
「たまたま駅で偶然会って。合コン気乗りしないからお茶に付き合ってくれって言われて。何回断ってもしつこくて、仕方なくコーヒーを1杯だけ飲んできたんだ……」
ヤツの話を聞いているうちに、だんだん面白くなってきて笑ってしまった。
ちっとも面白くなさそうな表情のカメ男は、私の反応が気に食わないらしく心なしか機嫌が悪い。
「須和って本当に優くんに好かれてるよねぇ。同い年っていうより兄弟みたい」
「…………やめてくれ」
なんでそんなに嫌がるのよ、同僚に慕われるなんていいことなのに。
私は出来上がった料理をお皿に盛って、せっせと部屋のテーブルへ運んだ。
キンキンに冷えたビールと、冷凍庫で冷やしておいたグラスも添える。
それなりに食卓と呼べるテーブルが出来上がった時に、ようやくカメ男がスーツのジャケットを脱いでネクタイを緩めて、ホッとしたような顔になったのが見えた。



