今夜は「梢」ってカメ男に呼んでもらうぞ!
という固い決意を胸に抱きながら、私はヤツのアパートにひと足先に到着した。
カメ男は今週ずーっと優くんに付きっきりで仕事を教えていたため、自分の思うように仕事が進まなかったらしく。
少し残業してから帰るから先にアパートに行ってて、と言われたのだ。
合鍵を使って鍵を開けて、部屋の中に入る。
家具類はほとんど黒とかグレーの暗めの色で統一されたヤツの部屋。
鮮やかな色のものが無いからちょっと無機質に感じるこの部屋も、もう3ヶ月以上通ったから慣れた。
キッチンのどこに何があるのかも把握してるし、むしろ足りない道具は私が買い揃えたりして。
シャンプーもリンスも、トリートメントも。
私が愛用しているものを勝手にお風呂場に置いたし、メイク落としも同様だ。
1組しか無かった全ての食器はペアの物を買い足したり。
もちろんアイロンも購入した。
部屋の片隅に置かれたフタつきの黒いボックスはカメ男がいつの間にか用意してくれていて、その中に私の下着とか部屋着とか、まれに平日泊まった時のための仕事用の服も入れてある。
ヤツの「男のひとり暮らし」だった部屋は、私によって「彼女がいる」部屋へと変化した。
特にインテリアやファッションに変なこだわりも無いカメ男は、私がコレと言えばうなずくし、捨てろと言えば捨てると思う。
お酒は好きだけど、煙草は吸わないし。
趣味だってそんなにお金はかからないボルダリングだし。
なんというか、とっても申し分ないのだ。
須和柊平という男は。
とにかく今の私の願いはただひとつ。
「梢」って呼んでほしいし、「柊平」って呼びたいの。
それだけなのよ。



