ウサギとカメの物語 2



「梢とだったら、仕事が楽しくなりそうだよ~!」


と呑気に喜んでいる優くんの顔を見ていたら、まぁいいか、という気持ちがちょっとだけ生まれた。


決して彼がイケメンだから、とかそういうんじゃない。
たぶん、いやきっと。おそらく。
イケメンに甘いなんて私も結局そのへんは区切れない中途半端な女だよね……。


おそらく来週は私の名前を彼がひたすら呼ぶんだろうな、カメ男の時と同じように。
「梢~!」って。
恋人であるカメ男には1度も呼ばれたことのない、私の名前を何度も呼ぶんだろう。


奈々に指摘されてから、名前のことばっかり考えちゃって。
心の中で練習してるわけ。


今日は金曜日だし、夜はヤツの家に泊まるし。
2人きりになったら。


しゅ、しゅ、しゅ、しゅ、……。
柊平、って呼んでいいかしら?


急に呼んだらおかしいかな?
絶対にヤツのことだから、「え?」とか聞き返してくるに決まってる。


聞き返されたらどう言えばいいんだろう?
奈々に言われたから、っていう理由もなんか変だよね。
優くんに刺激されたから、っていうのも変?


…………だー、かー、らー。
私は中学生か、っての。


スマートに!
さりげなく!
ずっと前からそう呼んでたみたいに!
言い詰まることなく、サラッと言えば平気なはず!