ウサギとカメの物語 2



異動してきたばかりのイケメン優くんは、私の目の前で甘ったれたようにカメ男の名前を呼ぶ。
とにかく呼ぶ。
見境なく呼ぶ。


「柊平~、ちょっとこれ分かんねぇよ~」って。
時には「こっちに来てくれよぉ~」とか言ったりしてる。


あんたはカメ男の彼女かい!
っていうツッコミを入れたくなるほどに、優くんはことあるごとにカメ男を頼っていた。


のそのそスローな歩調で歩くカメ男に
「柊平、歩くの遅すぎ~!」と平気で言うのも優くん。

仕事が早くてパソコンのキーボードを打つ指が超高速のカメ男に
「ヤバっ!柊平すげぇ!」って尊敬の眼差しを向けるのも優くん。

お昼休みになるとさっさと1人で行こうとするカメ男に
「柊平~、一緒にお昼行こうぜ!牛丼でもいいからさ!」と子犬のようについていくのも優くん。


いよいよ優くんのことが羨ましくなってきた頃。


金曜日を迎えた。


真野さんから呼び出しを受けた私は、なぜか隣にいる優くんを不思議に思って首をかしげる。


「真野さん、何かありましたか?」


私が尋ねると、真野さんはニッコリと柔和な笑みを浮かべて


「高槻くんは、来週からはコズちゃんについて色々仕事を覚えてほしいの~」


と言った。


「え!?私が!?」

「マジっすか!?梢に!?やったぁ!」


私と優くんがそれぞれの感想を述べると、真野さんはイスに座ったままうなずいていた。


「コズちゃんは人に教えるのが上手だからね~!基礎編は須和くんに今週教えてもらったと思うから、来週から応用編をコズちゃんにお願いしたくって」

「お、応用編って言ったって………」

「コズちゃんお手製の凄いマニュアルがあるって須和くんに聞いたのよ~。ほほほほ」


上機嫌でチラリとカメ男を見やる真野さん。
ヤツは一瞬にして私から目を逸らした。


あ、あ、あいつ~!カメ男のヤツ~!!
優くんを追い払うために私を売ったな!!


確かに去年の年末に岩沼支店に1週間ほどヘルプに行く際、必要だと思って簡単なマニュアルを作った。
まさかそれを持ち出して真野さんに言うなんて、カメ男ったらよっぽど優くんから離れて1人になりたいんだな。