その日の帰りに、奈々が発した何気ない一言で私は驚愕した。
それは奈々と並んでアーケード街を歩いて駅まで向かっている時のことだった。
いつもみたいに、奈々が恋人の田嶋とのノロケ話をするのでそれをフンフン聞いていたら。
彼女が思い出したようにポンと手を叩いたのだ。
「ねぇ、コズって須和になんて呼ばれてるの?」
「………………………………え?」
本当に本当に何気ない一言だった。
奈々からしても何の気なしに質問した言葉だったと思う。
ただの興味本位で聞いてみただけの、意味の無い質問。
でもそれは、私にとってはけっこう重要な問題だということを瞬時に察知した。
「大野、って呼ばれてる……」
私がそう答えると、奈々は「そうじゃなくて」と笑い飛ばした。
「それは仕事の時でしょ?じゃなくて、2人きりの時はなんて呼ばれてるの?コズ?梢?それともコーちゃん?それともハニー?」
「………………大野、だってば」
「え?嘘でしょ?」
奈々がビックリしたように私を見つめてくる。
その視線が痛くてたまらない。
彼女に言われて初めて気がついた。
私はカメ男に「大野」としか呼ばれていない!
名前でなんて呼ばれたこともない!
そして私もヤツを「須和」としか呼んだことがない!
私たちは中学生かっ!
はたまた付き合い始めの高校生かっ!
驚いているのは奈々よりも私の方で。
今まで気づきもしなかったその事実に、すっかり飲み込まれてしまった。



