私と須和が付き合い出した頃、一番驚いていたのは同じ事務課で働く親友の奈々だった。


それまで私はずっとずーっとイケメンを推奨していて、社内でも女子社員人気ナンバーワンの熊谷課長に憧れていた。
もちろんそのことは奈々にも話していたし、バーチャル熊谷課長という存在を頭の中で生み出し、あらぬ妄想をしていたことも彼女は知っていた。


だからこそ、急にぽっと出てきた同期の須和と付き合うことになった時、奈々は頭の上に、目の中に、体中にはてなマークを散りばめて私に尋ねてきたのだ。


「一体何があったの?どうして須和なの?どこがいいの?明らかに好みのタイプから180度逸れてるよね?」って。


いやはや、まさにその通り。
彼女が言っていることはどこもかしこも間違っておらず、私だって自分自身に問いただしたい。
理想の男性像とはおよそかけ離れた須和柊平。
何が良かったの?って聞きたい。


何が良かったのか。


私があの男を好きになった理由は、もはや数え切れない程あって。
色んなことが重なって、気づいた時にはもう大好きになっちゃってて。


しばらく「ヤツに対するこのときめきは恋でも何でもない!消えろ!消えてくれ〜!」みたいことを念じてた時期もあったんだけど。


恋心を認めたら、あら不思議。
地味だったあいつがなんだか突然、とっても存在感のある人間に思えてしまい、その感情に突き動かされるままに告白をしたという、私のなんとも言えない情けないエピソード。


須和のことは心の中でこっそりカメ男と呼んでいて、うっかり「カメ男」と呼んでしまいそうになることもあるけれど、きっとヤツのことだからそう呼んだとしても特に興味を示すことは無いと思う。
彼はそういう男なのだ。


基本的に聞き役で、何か発言をしても言葉が足りなくて、そして表情もあまりハッキリしない。
さらには果てしなく鈍感。それも超のつく鈍感ぶり。
その代わりと言ってはなんだけど、目で物事を語りかけてくるというか。
「うん」という相槌の向こう側に、「聞いてるよ」「分かってるよ」っていう声が聞こえてるくるような感覚。


そこまで目を合わせて話をするわけでもないから、その効果を得られるのはまれなんだけどね。


ヤツが私のどのへんを好きになってくれたのかは不明なままだけど、とりあえず私がいないと「会いたくなる」そうで……。
てへへ。うふふふ。うっしっし。


「好き」という言葉を面と向かって言われたこともないのに割と満たされているような気持ちになっているのは、なんでかヤツの手中にハマっているような気がしてならなくて若干悔しい。