「ねぇ、柊平」


どれだけ急いで帰ってきてくれたのか、ヤツはまだ呼吸が整っていなかった。
私が呼びかけると、「ん?」と顔を上げる。


「初めて見た。走ってる姿」

「……………………緊急事態は走るよ」

「妊娠は緊急事態?」

「うん。俺にとっては」

「私にとっても、そうだよ」


私が布団から手を出すと、ヤツはそれを両手でギュッと握ってくれた。


「ちゃんと育児に協力してくれる?」


電気がついた明るい部屋の中で尋ねる。
私の問いかけに対して、間を開けることなくヤツがすぐさまうなずく。


「もちろん」

「お風呂入れてくれる?」

「うん」

「オムツも交換してくれるの?」

「うん、やる」

「休日はボルダリング出来ないよ?家族サービスだよ?」

「そっちの方がいい」

「ふふふ」

「なに?」

「もうすっかりパパだね」


柊平が、優しく笑った。
その顔を見たら、心配が一瞬にして吹き飛んだ。


この人は心から妊娠を喜んでくれて、そしてお腹にいる赤ちゃんを可愛がってくれるだろうな、って。


だから何も心配いらない。






私と柊平の幸せな生活はこれからも続くんだなぁ、と実感した瞬間でもあった。