なんにも無い、がらんとした部屋の中で。
ポツンと私たち2人が抱き合う。
部屋の中は冷えているのに、やけにあったかく感じた。


私は想像していた。
カメ男がリングゲージで私の指のサイズをこっそり測っている姿とか、婚約指輪を選んでる姿とか、賃貸物件の部屋探しをしている姿とか、花束を買いに行ってる姿とか。
どんな気持ちで、どんな風に、どんな想いを込めてしてくれたんだろう。


ふふふ、と笑ってから、抱き合ったままヤツに尋ねる。


「結婚を意識し出したのはいつ頃からなのでしょうか?」

「……………………いいよ、そういうの」

「こらっ!面倒くさがるな!」


私に怒られたカメ男はわざとらしくため息をついて、「夏に俺が風邪引いた時」と言った。


「風邪を引いて、寝込んで目を覚ました時、そばに梢がいるのを見たらホッとした。当たり前みたいにそばにいるって言ってくれたのを聞いて……」


あぁ、きっと俺は自分が思っていた以上に、梢が思っている以上に、梢はいなくてはならない存在なんだ、って。
大切な人なんだな、って。
そう思った━━━━━。


後半のヤツの言葉は、どんどん声のボリュームが絞られていって、耳元で話されているのにも関わらず耳を済まさないと聞こえなかった。


でも、ちゃんと聞こえた。


カメ男の……、柊平の気持ちが。