ウサギとカメの物語 2



口元が緩みっぱなしの私を横目に、カメ男は部屋の隅に積まれた段ボールの方へ歩いていった。
なにやらいくつか段ボールを開けて中身を確認している。


私は私でキッチンの中に入り込んで、ヤツとの同棲生活を一人で勝手に妄想していた。
「おかえり」と「ただいま」を当たり前に言い合って、さらには毎日「おはよう」と「おやすみ」を言い合えるんだ。


ひゃほーぅ。
考えただけで嬉しすぎてウハウハしちゃう。
……ってまだヤツの口から「同棲しよう」って言われてないんだけど。
でもまぁ、そういうことだよね。
きっと照れくさくて言葉に出来ないんだわ。
まったくもう、厄介な男だな!
通訳をつけてちょうだい。


「梢」

「はい?」


妄想を膨らませている頭に、不意に聞こえたカメ男の呼ぶ声。
ほぼ無意識に返事をしてキッチンのカウンター越しにヤツを見た。


その瞬間、私は固まった。


最大級に驚いた時にカメ男が一時停止するのがよく分かった。
きっとこの時の私はまさに一時停止していたと思う。


肩にバッグをかけたまま、しかも、カメ男の会社用の荷物をひと袋抱えたまま。


目だけを見開いてカウンターからヤツの姿を凝視した。


カメ男が、花束を持っていたからだ。


「な、な、な、なに……。そのお花……」


私が絞り出すようにつぶやくと、ヤツはいつもの落ち着いた声のトーンで


「なにって、プロポーズ」


と答えた。














え?


プロポーズ?