口元が緩みっぱなしの私を横目に、カメ男は部屋の隅に積まれた段ボールの方へ歩いていった。
なにやらいくつか段ボールを開けて中身を確認している。
私は私でキッチンの中に入り込んで、ヤツとの同棲生活を一人で勝手に妄想していた。
「おかえり」と「ただいま」を当たり前に言い合って、さらには毎日「おはよう」と「おやすみ」を言い合えるんだ。
ひゃほーぅ。
考えただけで嬉しすぎてウハウハしちゃう。
……ってまだヤツの口から「同棲しよう」って言われてないんだけど。
でもまぁ、そういうことだよね。
きっと照れくさくて言葉に出来ないんだわ。
まったくもう、厄介な男だな!
通訳をつけてちょうだい。
「梢」
「はい?」
妄想を膨らませている頭に、不意に聞こえたカメ男の呼ぶ声。
ほぼ無意識に返事をしてキッチンのカウンター越しにヤツを見た。
その瞬間、私は固まった。
最大級に驚いた時にカメ男が一時停止するのがよく分かった。
きっとこの時の私はまさに一時停止していたと思う。
肩にバッグをかけたまま、しかも、カメ男の会社用の荷物をひと袋抱えたまま。
目だけを見開いてカウンターからヤツの姿を凝視した。
カメ男が、花束を持っていたからだ。
「な、な、な、なに……。そのお花……」
私が絞り出すようにつぶやくと、ヤツはいつもの落ち着いた声のトーンで
「なにって、プロポーズ」
と答えた。
え?
プロポーズ?



