「特に無いですけど……」
カメ男がそう答えると、真野さんが大喜びして手を叩いた。
「あら~!それなら良かったわ!今夜、みんなであなたの送別会をしようって話になってね。主役のあなたが来れないんじゃ話にならないから」
「送別会?いや、それは大丈夫です。みなさんの貴重な週末の時間を奪うみたいで申し訳ないですし……」
「な~に言ってるのよ!みんなの好意は受け取らないと!ね?」
「…………はい」
真野さんの抑揚のついた独特な話し方と雰囲気に押され、カメ男は困ったような顔で小さくうなずいた。
ほぉほぉ。
どうやらカメ男は真野さんにだけは言い返せないらしい。
年上女性特有の押しの強さみたいなものに弱いのかもしれない。
「駅前のお店、19時から予約とれました~!」
奈々が携帯を片手に事務所へ入ってくるなり、嬉しそうに笑顔でそう告げてきた。
そして、突っ立ったままのカメ男の腕を肘で小突く仕草をする。
「言っておくけど花とかメッセージとか、そういう感動的なのは用意してないからね!」
「うん。辞めるわけじゃないし。単なる異動だから大丈夫」
淡々と当たり前のように答えるカメ男に、奈々はつまんなそうに目を細めるのだった。



