存在感なんてまるで無くて、地味で目立たないカメ男だけど。
事務課で一緒に働いた仲間として、みんな送別会に参加したいと言ってくれた。
なかなか人望あるじゃないか、カメ男。
ヤツのためにみんなが集まってくれるなんて、ちょっと感動したりして。
でもそれと同時にヤツが本当に本社からいなくなることを実感しちゃって、私の気分は少しだけ落ち込んだ。
落ち込むって私のキャラじゃないから、笑顔でその気持ちは隠しておいた。
「それじゃ早速、今日宴会出来るお店あるか探してくるわ」
さすがに事務所内で携帯をいじるのはアレなので、奈々がそそくさと事務所から出ていった。
彼女がいなくなってから、ハッとしたように真野さんがつぶやく。
「ねぇ、当の須和くんに予定聞いてないけど大丈夫かしら……?」
「確かに……」
うなずいて神田くんが私をガン見してくる。
いや、ガン見されても。
私だってヤツの予定を把握してるわけじゃないし……。
付き合っている間にヤツが「用事がある」と言っていたことって数は多くない。
たいていほとんどがボルダリングで、あとは月に1回大学時代の友達から飲みに誘われるか誘われないかくらいで。
そうそう、同期の田嶋とはよく飲みに行ってるみたいだけど。
残念ながら友達は少ない方なのだ。
そこへ、挨拶回りを終えたカメ男がタイミングよく事務所に戻ってくる。
私たちがひと所に集まって話をしていたもんだから、ヤツは仕事でトラブルでもあったのかと勘違いしたらしく「何かありましたか?」と真野さんに尋ねていた。
「須和くん。あなた今夜、予定ある?」
その問いかけに、何故かカメ男は一瞬私を見た。
え?なんで私?
別に泊まりに行くって話もしてなかったし、泊まりに来るって話もしてなかったよね……。
それとも私が忘れてるだけで、何か約束してたんだっけ。
首をかしげていたら、ヤツはもう私からは目をそらしていた。



