「いっつも私ばっかしゃべってて、柊平の話なんて全然聞いてなかったなぁ」
ポツンとつぶやいた私の声がやけに寂しげになっちゃって、自分でもヤバいと口をつぐんだ。
干渉に浸るのにはいくらなんでもまだ早すぎる。
「新しいアパートの隣人と恋に落ちないでね……」
「なにそれ」
「もしくは向かいの家の奥さんと不倫しないでね……」
「だからなにそれ」
「それか泉営業所の事務課の隣の席になった若い女の子と楽しくおしゃべりしないでね……」
「いつまで続くの、その妄想」
カメ男は私の妄想話に口元を緩めて笑っていた。
ヤツのその、他の人から見れば15%くらいしか笑っていない顔がヤツにとっては最上級の笑顔だってことを、私は知っている。
その部屋に一緒に住みたいな、って。
言えなかった。
伝えたいことをなかなか素直に口に出来ない私の悪いクセ。
新しい引越し先がどんな部屋かも分からないし、カメ男からしてみれば私との関係は現状維持で構わないと思っている可能性の方が高い。
それに、ヤツの性格から察するに。
きっと1人の時間を大切にするタイプだと思うんだよね。
だから同棲なんて思いつきもしてないんだろうな。
私は持っていた住宅情報誌をテーブルに戻して、その手をカメ男のメガネにかけた。
そのままヤツの顔からメガネを引き抜く。
メガネを外す瞬間だけヤツは眉を寄せたけれど、外したあとに残った表情はほんの少しの驚き。
あぁ、寂しい。
寂しいけど、仕方ない。
ゆるーくまったり積み重ねてきた私とカメ男の時間。
それが無くなるわけじゃないけど、毎日会ってた人と会えなくなるってけっこうな変化だと思うんだ、私は。



