カメ男のアパートの、黒いテーブルの上に何冊か雑誌が置いてあるのを見つけた。
それは市内の住宅情報誌で、賃貸物件を取り扱っているものだった。
その雑誌を手に取って、パラパラ中身に目を通す。
付箋とかマーカーとかで丁寧に印をつけていて、何を意味するのかすぐに悟った。
「柊平、引っ越すの?」
キッチンからコーヒーを持ってきてくれたカメ男に声をかけると、ヤツは私が持っている住宅情報誌に気づいてうなずいた。
「うん。そのつもり。ここからじゃ泉に通うのは少し遠いから。通勤には車を使うことになると思うけど、それにしても時間がかかりそうだしね」
「物件は決まったの?」
「あー……、うん。まぁ」
ガーーーーーン。
出遅れた。
完全に出遅れてしまった。
もっと早めに同棲しようって言うべきだった。
てゆーか、引っ越しとかそんな大事なことを一言も相談なく決めたヤツに腹が立った。
このモヤモヤがヤツにも伝わったらしく、カメ男は私の隣に座ってコーヒーを差し出してきた。
「地下鉄の八乙女駅から歩いて5分だから、ここよりは交通の便もいいよ」
「そうですかぁ~」
「拗ねないでよ」
「拗ねてませんよぉ~」
ほんとは拗ねてますけどねぇ~。
って顔に出ちゃってるよな、きっと。
とりあえずこの重くなりつつある空気感を取り払わねばという思いから、無理やり笑顔を作って声を弾ませる。
「引っ越しはいつ?手伝うよ!」
「11月の最後の週末に引っ越す予定だけど、兄貴に来てもらうから大丈夫」
「え、お兄ちゃんいたの?」
「うん。あと妹もいる」
しまった。
ヤツの家族構成すら私ってば知らないんだ。
私ばっかりペラペラ弟が1人いるだのお母さんが口うるさいだのなんだのって、家族の情報を公開しまくっていたのを思い出した。



