朝一番、女子更衣室にて。
奈々の口から大きな声が発せられた。


「須和と付き合ってるのがバレた!?」


今までの私なら「そんな大声出さないでよ!」って彼女の口を塞いでたと思うんだけど、今日はそれをしなかった。
だってどうせ口止めしたところで意味が無いから。
もう今日にでも久住から人事部の人に私とカメ男の件は伝えられてしまうわけで。
今さら他の誰かに聞かれてしまったら困るということは、もう無いのだ。


私を哀れむような目で見つめながら奈々がつぶやく。


「あっちゃ~。やっちまったねぇ……」

「私たちはやらかしてない。やらかしたのは優くん」

「まさか他人にバラされるとは」


そうなのよ。
そこなんだよね。
私とカメ男がヘマしてバレたなら踏ん切りもつくんだけど。
そうじゃないから余計に納得が行かないんだよね。


「じゃあコズが異動になるかもしれないってこと~!?それだけは嫌だ!」


ハッと思い出したようにそう言った奈々が、斜め上の何も無い空間に向かって両手を合わせて祈る仕草をする。


「どうか異動は須和でありますように~」


う~ん。
その願いごと、聞いてる方としては色々と複雑だ。


就業の準備を整えた私たちは、更衣室を出て廊下に出た。
廊下を歩きながら、奈々が不満げに口を尖らせる。


「久住も少しくらい見逃してくれたら良かったのにね!ちゃっかり自分は優くんと恋人になっちゃってさ」

「そうだよね~。でもさ、久住だよ?自分にも他人にも厳しい久住だよ?諦めるしかないよ……」

「確かに……」