トボトボと歩く私の前をカメ男が歩く。


今までに私がヤツの後ろを歩くことなんてあっただろうか?
いや、無い。
一度も無い。


それほど落ち込んでいるのだ。
ヤツよりも歩く速度が遅くなるほどに。


「もう諦めたら?」


まるで他人事みたいに声をかけてくるカメ男。
なんでそんなに冷静なのか問い詰めたかったけれど。
この人はそういう性格なんだ。
何を言われても、何を聞かれても、何をされても、基本的に動じない。
動じたとしても短時間で吸収して、自分のものにしちゃうんだから。


重い引き出物が入った結婚式場の紙袋をダラッと持って、もう一方の手には黒のクラッチバッグ。
こうなったらクラッチバッグでもぶん投げてやりたい気分だった。


「どっちが異動になるのかなぁ。いつから異動になるのかなぁ」

「さぁ」

「どっちが異動になるのかなぁ。いつから異動になるのかなぁ」

「そのうち辞令が出るよ」

「どっちが異動になるのかなぁ。いつから異動になるのかなぁ」

「………………あと何回繰り返す?」


真っ暗な夜道を歩きながら、カメ男が呆れたようにこちらをチラリと振り返る。
面倒な女とでも思ってそうな顔だ。


そのうんざりしたような顔に文句を言ってやった。


「なによ!なんでそんなに冷静なのよ!」

「仕方ないでしょ。いつかはこうなるって分かってたことだよ」


そりゃそうなんだけど。
ヤツの淡々とした正論にはほとほと悲しくなる。
愛情が足りないよ~。