ウサギとカメの物語 2



もうすぐ4月。
新入社員の入社と、僅かばかりの異動がおこなわれる季節。


私とカメ男の地味な交際は、もちろん表沙汰になることは一切無くて。
穏やかでゆったりしたお付き合いは誰にも波風立てられることもなく続いていた。


ただ1人、鋭いカンを持つあの人を覗いては。


「コズちゃん、奈々ちゃん、これ見て〜!ほら、ここのページ」


珍しくお弁当を作ってこなかったという、ベテラン事務員の40代の大先輩真野さんも一緒に、奈々と3人で近場のカフェにランチで立ち寄った日のことだった。


真野さんは40代とは思えないタマゴ肌の持ち主で、薄化粧の優しい顔をニッコリとほころばせて手元に持っている雑誌を広げた。
その雑誌はお店でお客さんが自由に読むように本棚に常備されている、旅行雑誌だった。


「わぁ、リゾートホテルかぁ〜!いいなぁ〜。沖縄行きた〜い!海に入りたいなぁ〜」


真野さんが指し示したページを見て、奈々が楽しげな声を上げて食いつく。
私は奈々の肩越しにチラッと内容を確認して苦笑いを返した。


「私はダメだな〜。リゾート系はちょっと……」

「え、どうして?」

「それは……」


パチクリと疑問符の浮かぶ目でこちらを見てくる奈々と真野さんの視線を痛いくらいに感じながら、まさか「貧乳だから水着を着たくない」とは言えず。


「日焼けするの嫌なんだよね〜」って取り繕うような言い訳をしておいた。


「日焼けしようが黒くなろうが、そんなの気にしないでしょ〜、コズちゃんの彼は」


真野さんがあまりにもサラッとそういうことを言うもんだから、私も合わせて話をしそうになってハタと思い直す。


私……、真野さんに何か言ったっけ!?
カメ男と付き合ってること、言ったっけ!?
いいや、言ってない!!
断じて言ってない!!
社内では奈々と田嶋しか知らないはずなのにいいいいいい!!


私も奈々も固まったまま、真野さんに視線を送るのみだった。